解説

1950年代、四畳半の木造アパートで過ごした青春の日々。
端正な映像によって紡がれる、漫画家たちの純情グラフィティ。

東京都豊島区にあった、伝説のアパート「トキワ荘」。 “漫画の神様”手塚治虫が暮らしたこのアパートに集った若き漫画家たち。金も仕事もなく、食べるものにも事欠く毎日ながら、漫画に賭ける情熱だけは誰にも負けなかった。

『つぐみ』(1990年)『トニー滝谷』(2004年)の市川準が1995年に製作した本作は、漫画家の卵たちが過ごしたトキワ荘での日常を、史実に基づきフィクションとして仕上げた珠玉の青春映画。夢多き若者たちが切磋琢磨したあたたかくもほろにがい青春の思い出が、懐かしき昭和の空気感そのままに、誕生から25年の時を経てデジタルリマスターでよみがえる。

演劇界・映画界のホープたちが勢ぞろいし、実在した漫画家をコミカルに演じた青春群像劇。

トキワ荘の住人たちの兄貴分的存在だった寺田ヒロオ役を演じたのは本木雅弘。90年代当時、『RAMPO』(1994年)『GONIN』(1995年)などに出演し個性派俳優として注目を集めていた彼は、本作での禁欲的ともいえる静かな演技により、見事に新境地を切りひらいた。

寺田を囲む漫画家たちとして、大森嘉之、阿部サダヲ、古田新太、生瀬勝久、鈴木卓爾、さとうこうじ、翁華栄ら、現在も役者である当時の小劇場、自主映画で活躍していた若手俳優が総出演。なかにはこれが初の映画出演作になった者もいたが、今ではみな日本映画界と演劇界を支える存在となった。その他、桃井かおり、きたろう、時任三郎、安部聡子らも出演。俳優以外にも手塚治虫役に劇作家の北村想、出版社の編集長役にドキュメンタリー監督の原一男、娼婦役に漫画家の内田春菊をキャスティングするなど、随所に市川準監督のこだわりが光る。撮影は、同監督の映画、CMを多数手がけた小林達比古。美術セットで再現されたトキワ荘をはじめ、昭和30年代の風景や時代の空気を見事につくりだした。

物語

東京都豊島区にある木造アパート「トキワ荘」。そこには“漫画の神様”手塚治虫(北村想)が住み、日夜、編集者たちが彼のもとに通いつめていた。向かいの部屋に住む寺田ヒロオ(本木雅弘)は、その様子を眺めながら、こつこつと出版社への持ち込みを続けていた。

やがてトキワ荘を去った手塚治虫と入れ替わるように、若き漫画家の卵たちが次々に入居してくる。藤本弘/藤子・F・不二雄(阿部サダヲ)、安孫子素雄/藤子不二雄Ⓐ(鈴木卓爾)、石森章太郎(さとうこうじ)、赤塚不二夫(大森嘉之)、森安直哉(古田新太)、鈴木伸一(生瀬勝久)。また近所に住むつのだじろう(翁華栄)もトキワ荘に入り浸っていた。揃って『漫画少年』の投稿仲間だった彼らは、寺田を中心に“新漫画党”を結成。貧しい生活のなか、互いを励ましあい、漫画の未来について熱く語り合う日々が続く。なかでも一番年上の寺田は兄貴分的存在として若き彼らを静かに見守り、その視線は、赤塚の友人であり自分とはまったく異なる作風のつげ義春(土屋良太)にも向けられていた。

そんなある日、『漫画少年』の出版社、学童社が突如倒産。これを機に、8人の仲間たちの進む道も少しずつ変化していく。どんどん売れっ子になっていく者。漫画からアニメーションへの移行を決意する者。なかには東京を去る者もいた。

流行に惑わされず、黙々と自分の描きたい漫画だけを追い求めているように見えた寺田の心にも、徐々に迷いが生まれてくる。時代の激しい変化とともに、漫画家の卵たちの青春の日々にも、ゆっくりと終わりの気配が近づいていた――。

キャスト

本木雅弘|寺田ヒロオ役

1965年12月21日生まれ。1988年にシブがき隊を解散後、CM・映画・TVなどで活躍。その幅広いキャラクターで現在の日本映画には欠かせない存在となり、『シコふんじゃった』(1992年)と『おくりびと』(2008年)ではそれぞれブルーリボン賞主演男優賞、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞をはじめ多くの映画賞を受賞した。その他の主な映画出演作は『ラストソング』(1994年)『RAMPO』(1994年)『双生児 GEMINI』(1999年)『日本のいちばん長い日』(2015年)『永い言い訳』(2016年)など。

大森嘉之|赤塚不二夫役

1972年1月6日京都生まれ。『瀬戸内少年野球団』(1984年)のバラケツ役でデビュー。『青春デンデケデケデケ』(1992年)『濹東綺譚』(1992年)『湾岸バッド・ボーイ・ブルー』(1992年)での演技が認められ、キネマ旬報最優秀新人賞をはじめ各映画祭新人賞を総ナメ。その他の主な映画出演作は『釣バカ日誌スペシャル』(1994年)『静かな生活』(1995年)『海辺の映画館-キネマの玉手箱』(2020年)など。

古田新太|森安直哉役

1965年12月3日兵庫県生まれ。「劇団☆新感線」の看板役者。『トキワ荘の青春』は映画出演2作目だった。現在はTV・ラジオ・舞台・映画と多方面で活躍中。その他の主な映画出演作に『木更津キャッツアイ』シリーズ(2003、2006年)『小森生活向上クラブ』(2008年)『台風一家』(2014年)『土竜の唄 香港狂騒曲』(2016年)『超高速!参勤交代リターンズ』(2016年)など。来年は2本、出演作の公開が控える。

生瀬勝久|鈴木伸一役

1960年10月13日兵庫県生まれ。1988年から関西の人気劇団で活動。90年代から映像作品への出演が続き、2001年に劇団を退団、その後は舞台・TV・映画と幅広く活躍する。『トキワ荘の青春』で映画初出演。最近の映画出演作に『マスカレード・ホテル』(2019年)『コンフィデンスマンJP -ロマンス編-』(2019年)『任侠学園』(2019年)など。

鈴木卓爾|安孫子素雄役

1967年2月14日静岡県生まれ。監督・脚本家として活躍しながら、Vシネマ『夏の思い出/異常快楽殺人者』(1995年)で主演俳優デビュー。役者として『ナイン・ソウルズ』(2003年)『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』(2016年)『菊とギロチン』(2018年)などに出演。監督作に『ゲゲゲの女房』(2011年)『ゾンからのメッセージ』(2018年)『嵐電』(2019年)などがある。

阿部サダヲ|藤本弘役

1970年4月23日千葉県生まれ。1988年「大人計画」に入団、その後は映画・TV・舞台とジャンルを問わず活躍中。市川準監督作品では『ざわざわ下北沢』(2000年)にも出演した。その他の主な映画出演作に『舞妓 Haaaan!!!』(2007年)『夢売るふたり』(2012年)『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)『MOTHER マザー』(2020年)など。

さとうこうじ|石森章太郎役

1963年岡山県生まれ。大学卒業後加藤健一事務所の第一期俳優教室に入り、その後多くの舞台に出演する。『トキワ荘の青春』で映画初出演し、『ざわざわ下北沢』(2000年)にも出演した。その他の映画出演作に『愚か者 傷だらけの天使』(1998年)『酔夢夜景』(1998年)『溺れる魚』(2001年)など。

翁華栄|つのだじろう役

1962年11月6日宮崎県生まれ。東京壱組の舞台公演の多くに出演。大友克洋監督の『ワールドアパートメントホラー』(1991年)に準主役で出演したのを機に、『学校』(1993年)『居酒屋ゆうれい』(1994年)などに出演。その他の主な映画出演作に『スワロウテイル』(1996年)『ざわざわ下北沢』(2000年)『ピンポン』(2001年)『へヴンズ ストーリー』(2010年)『友罪』(2018年)『楽園』(2019年)など。

松梨智子|水野英子役

1971年4月14日広島県生まれ。早稲田大学在学中、自主映画『きままちゃんはあんたたちじゃないからのぼるのぼる』(金井康史監督)に主演。同作は、市川準監督が審査員をつとめた1994年PFFアワードで審査員特別賞を受賞。自身でも監督として活動し『映画監督になる方法』(2008年)『サビ男サビ女』(2011年、オムニバス映画)などの作品を発表した。

北村想|手塚治虫役

1952年7月5日滋賀県生まれ。劇団「TPO師☆団」を経て名古屋にて「プロジェクト・ナビ」を主宰。1984年『十一人の少年』で岸田戯曲賞受賞、1989年『雪をわたって……第二稿・月のあかるさ』作・演出で第24回紀伊国屋演劇賞・個人賞受賞、2014年『グッドバイ』で第17回鶴屋南北戯曲賞受賞。その他著書多数、小説『怪人二十面相・伝』は2008年に『K-20 怪人二十面相・伝』として映画化された。

安部聡子|石森の姉役

7月12日福岡県生まれ。早稲田大学在学中、早大映画制作グループ「ひぐらし」に所属し、約20本の8ミリ映画に出演した。1993年から平田オリザ主宰「青年団」の一員として多くの舞台に出演する傍ら、市川準監督作品を始め映画作品でも活躍。2005年から「地点」の俳優として活動中。主な映画出演作に『東京夜曲』(1997年)『たどんとちくわ』(1998年)『嵐電』(2019年)など。

スタッフ

監督|市川 準

1948年東京生まれ。1975年CM制作会社(株)キャップに入社。1981年、退社後フリーとなり市川準事務所を設立。CM演出家として「禁煙パイポ」「NTTカエルコール」「タンスにゴン」「サントリーニューオールド」などその時代を代表するCMを数々演出した。1985年にはカンヌ国際広告映画祭で金賞を受賞。1987年に『BU・SU』で映画監督デビューすると精力的に作品を発表、市川準ワールドをつくりあげ多くの映画ファンを魅了した。本作品『トキワ荘の青春』は8本目の長篇映画となる。1995年『東京兄妹』でベルリン国際映画祭国際評論家連盟賞受賞、2005年『トニー滝谷』でロカルノ国際映画祭審査員特別賞を受賞。遺作となった『buy a suit スーツを買う』は第21回東京国際映画祭日本映画「ある視点部門」作品賞を受賞した。2008年9月19日死去。享年59歳。生涯、CMと映画という二つの世界でその才能を発揮し続けた。

〈監督作品〉
1987年 『BU・SU』
1988年 『会社物語』
1989年 『ノーライフキング』
1990年 『つぐみ』
1991年 『ご挨拶』
1993年 『病院で死ぬということ』
     『きっと、来るさ』
     『クレープ』
     『欽ちゃんのシネマジャック4 ドキドキ編』
1995年 『東京兄妹』
1996年 『トキワ荘の青春』
1997年 『東京夜曲』
1998年 『たどんとちくわ』
1999年 『大阪物語』
2000年 『ざわざわ下北沢』
2001年 『東京マリーゴールド』
2002年 『竜馬の妻とその夫と愛人』
2004年 『トニー滝谷』
2005年 『あおげば尊し』
2006年 『春、バーニーズで』
2007年 『あしたの私のつくり方』
2008年 『buy a suit スーツを買う』

脚本

鈴木秀幸

1961年宮城県生まれ。CM演出家として活躍し、市川準監督の『東京兄妹』(1995年)『トキワ荘の青春』で共同脚本を手がける。2007年から自主制作映画に取り組み、物件をテーマにしたオムニバス映画『8つの短編』等を発表。また『春を背負って』(2014年)『追憶』(2017年)といった作品で照明を手がけている。

森川幸治

市川準監督作品で助監督をつとめ、『トキワ荘の青春』では共同脚本を手がけた。現在は福岡を拠点にした映像制作プロダクション「Pylon(パイロン)」を主宰し、TVCMやPV、WEBムービー等を制作している。同じ福岡出身の江口カンが監督した『ガチ星』(2018年)ではプロデューサーをつとめた。

音楽

清水一登

1956年東京生まれ。作曲家であり、キーボーディスト、クラリネット奏者としても活躍する。1989年、妻のれいちとのユニット「AREPOS」を結成。GONTITI、EL-MALO 等のライブサポート、Asian Fantasy Orchestraや梅津和時、巻上公一らとの活動と共に、CM、映画や舞台音楽など幅広く活動している。れいちと共に、市川準監督『東京夜曲』(1997年)『ざわざわ下北沢』(2000年)でも音楽を担当した。

れいち

「はにわオールスターズ」「はにわちやん」等多くの活動に参加後、1989年清水一登と共に「AREPOS」結成。GONTITI、小林靖宏等のライブサポート、CM、映画音楽など幅広く活動している。

撮影|小林達比古

1949年生まれ。CMカメラマンとして数多くの作品を手がけ、1987年、市川準の劇映画第一作『BU・SU』で撮影を担当する。以来、市川準監督作品では欠かせない撮影監督となり『トキワ荘の青春』をはじめほとんどの作品で撮影を手がけた。撮影監督をつとめた映画作品に『白い犬とワルツを』(2002年)『わたしのグランパ』(2003年)などがある。2014年死去。

美術|間野重雄

大映東京撮影所で美術監督として活躍し、増村保造監督『盲獣』(1969年)『遊び』(1971年)や山本薩夫監督『白い巨塔』(1966年)『氷点』(1966年)など数々の名作を手がけた。市川準作品では『トキワ荘の青春』の他、『病院で死ぬということ』(1993年)『東京夜曲』(1997年)『たどんとちくわ』(1998年)『東京マリーゴールド』(2001年)で美術を担当。2012年死去。

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